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8月1日(水)午後1時。男鹿市商工会館オガルベ4階にて、アメリカのインディアナ大学民俗学科 東アジア言語文化学科マイケル・D・フォスター准教授による講演会「グローバルな観点から考えるナマハゲ:伝統と観光と将来」が開かれました。

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ナマハゲの伝統と観光は両立できないのか?本来 大晦日にのみ現れる神であるナマハゲで観光客を呼び込むことは伝統を軽んじることにつながるのか?そんな悩みを解決すべく、民俗学のエキスパートのご意見を伺って、みんなで一緒に考えてみよう!というのです。

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まず「ナマハゲとはなにか?」について考えます。ナマハゲは年の変わり目に現われてケガレを祓い、福をもたらす来訪神。怖ろしい存在でもあり、ありがたい存在でもあるのです。

マレビト(まれに来て いろいろなものを もたらす神)=来訪神が年の変わり目に家々を訪れるという風習は、主に秋田県のナゴメハギ・山形県など東北地方の日本海側に多く、石川県、宮古島、鹿児島県・・にも多く存在します。

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日本だけではありません。世界中にも来訪神の例はあります。サンタさんもマレビト(来訪神行事)のヒトツ。年の瀬に赤い服を着た不思議な人が、夜中に家々を回り、煙突から家内に入ってきて、子供たちに贈り物をする。・・・こうして文字にしてみると、ナマハゲとの共通点がいくつか見受けられますね。サンタさんは こわい顔はしていませんが、オランダで行われているサンタクロースに似た行事では、赤い衣装の老人に、黒い顔の人が付き添い、悪い子を こらしめます。

イギリス・アイルランドのママ―はワラでできたミノのようなものを まとって問答のパフォーマンスをし、もてなしを受ける・・・。ワラで出来たケラを まとい、問答をして、酒やお膳をふるまわれるナマハゲを連想させますね。

アメリカのホピ族の民俗行事にポワム豆祭というものがあり、これから豆を植える時期にカチナという神様が山から下りてきて子供たちを しつけるのだそうです。この お祭りは、伝統が崩れることを危惧して100年以上前から撮影や観光を制限しているそうです。

ナマハゲさんは子供のこと、家庭のコトの他に、稲や農作物の作柄についても言及しますが、アメリカのハロウィーンにも収穫祭という意味があるのだそうです。収穫の終わる時期を年末と考え、家に戻ってくる死者や悪霊を追い払うために家々を回って食べ物を集める。他の行事との相違点は、恐い面をかぶって家々をまわるのも、もてなしを受ける(おかしを もらう)のも子供たちであるということ。

時節の変わり目。秩序が崩れやすいときに。仮装・仮面など素顔ではない姿で、家々を回り、きまったやりとりをする。パフォーマンスをするのは男性が多い。もてなし や
ごほうびがある。言葉・食べ物の交換。恐怖を あたえる。こどもたちへの しつけ。次の世代である子供が行事の対象になる。いい年を迎えるための縁起の良い行事・・・というふうに世界の来訪神との共通点も たいへん多くあるようです。

日本には来報人行事が多く残っていますが、鹿児島県 下甑島(しもこしきじま)にはトシドンという来訪神がいます。作法にはナマハゲと同様に地域ごとに差がある。大みそかの夜に公民館などに男たちが集まり、音を立てながら家々を回り、這うようにして家に上がる。ナマハゲと違って もてなしは受けない。子供一人一人に日ごろの生活ぶりなどを質問し、歌を歌わせる。ひとりひとりの良いこと・悪いことにも言及。トシドンから子供にモチが あたえられる・・・。

トシドン保存会にもナマハゲと 同じように、「保存と観光の せめぎあい。衰退を回避し、伝統を維持できるか」・・・という課題があって、伝統を守るために写真を禁止したり、ツアーは受け入れない。見学できる人数を制限する。などの対策が講じられているそうです。

ではナマハゲは どうでしょうか?

男鹿のナマハゲは いまや秋田県のシンボル・東北のシンボルとしても使われることがあるほど有名になりました。道路、鉄道の路線、ヘリコプターにも、ナマハゲの名が付いています。魅力があるからこそ、いろんなところで使われているんだと思います。

本来の、大みそかにだけ現れるナマハゲを維持するためには、外部向けに新しいナマハゲ行事もでてくるのは当然の流れと言えるでしょう。ナマハゲという おなじ名を冠していても、いくつかの違う役割を果たす別のものが でてきたのです。お土産などの商品として、お客さんを呼び込むための観光資源として経済に役立てられることも あるでしょう。

本来のナマハゲを守るためには、ある程度外部から入ってくる観光客のことも考えないと生き残っていけないかもしれない、と考させられたそうです。

石油などと違って、文化資源は いくら利用しても なくならない。男鹿のナマハゲは伝統の保存と、観光資源としての利用が うまく出来ているのではないか?と仰っていただきました。

新しい伝統のひとつとして、なまはげ柴灯まつりが あげられます。新しいとは言っても来年で もう50年。民俗学的に考えても伝統化されてきたと言っていいそうです。なまはげ柴灯まつりは、おなじナマハゲを題材した祭りでも、大晦日の行事とは まったくの別物です。観光行事として多くの人に見ていただいて、写真を撮ってもらうことで、祭りを知らない人に見てもらうこともできる。いろんな人が間接的にナマハゲを経験できるのです。

最短でも201年前から続く男鹿のナマハゲ。伝統を守るという内向きの考え方を維持しながら、外部に見せるという外向きの展開もしています。

マイケル先生が湯本のナマハゲ行事を見に行ったとき、ホテルにもナマハゲがきていたそうです。コミュニティの内向きのナマハゲ(夜に地域で行われるナマハゲ行事)と、外向きのナマハゲ(市役所や観光案内所で観光客さんに見てもらうためのナマハゲ)と、そして夜にホテルにやってくるナマハゲ(完全に外向き)・・・。ホテルを仮の家として考えたら宿泊客は仮の家族ではないか。男鹿では伝統のナマハゲ行事と観光用のナマハゲ行事が、同日に3つのパターンで行われているのです。

先生に、「大晦日以外の観光ナマハゲはニセモノなのではなくて外向きバージョンのナマハゲなんだ。観光と伝統の あいだには、どちらが本物かという言い方はしたくない。パターン。バージョンという新しい考え方」を教えていただきました。それって すっごく良い考えだと思います!!だって、観光ナマハゲって、とっても人気があるんですもの!こんなに求めてもらえるのに、大みそかしか みんなに見てもらえなかったら なんだかモッタイナイです。

それにしてもマイケル先生、どうして こんなにナマハゲについて お詳しいんでしょう?

先生は、14年前から男鹿を訪れ、ナマハゲについて研究を重ねてこられたんですって。

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今年の2月に行われた なまはげ柴灯まつりにも来てくれていましたー。
はじめは妖怪に研究のために男鹿にいらしたそうなんですが、調べていくうちに、ナマハゲは妖怪とは まったく別のものだということに思い至り、その後 出版した妖怪についての本にはナマハゲは含まなかったそうです。よくマンガなんかでも妖怪の一種としてナマハゲが登場したりしますが、男鹿に住む わたしたちは、ナマハゲを妖怪だなんて思っていません。オニと呼ぶことはあっても、ナマハゲは神様、あるいは神の使いだ、という認識なのです。

男鹿では伝統を守る、継承する目的で「ナマハゲ伝導士 認定試験」も行われています。今年の秋で10年目。現在全国に149名のナマハゲ伝導士が存在しています。実は わたしも そのひとり。

とっても ありがたいことに県外の若い人たちもナマハゲに興味を持ってくれて伝道士試験を受けてくれているんですが、ホントは もっと男鹿の若い人たちにこそ知ってもらいたい。守り伝えてもらいたいです。

わたしには、小さいころから恐れてきた伝統的なナマハゲも、観光イベントなどで会える観光ナマハゲも、どっちも大事です。好きなんです。自慢したいです。

あんまりカンタンに出し過ぎると怖さや 有難さが薄れるというのも わかります。でも、自慢できる伝統があることに感謝して、「名前は知っているけど詳しくは知らない」人達に、ナマハゲの本当の姿を知ってもらうことこそが、伝統を守る第一歩になるんじゃないかな?と思います。

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マイケル先生、ありがとうございましたー!